両爬虫道を往く

博士にもひとかどの生き物屋にもなれなかったおじさんの日記帳 誤同定等ありましたらお気軽にコメントどうぞ

次の暇を待ってるだけだなんて 悔しくない自分じゃアリエナイ 進まなきゃ!

モンクロベニカミキリ。

 

この虫が満足に採れるのは国内では対馬だけではなかろうか。

 

学部2年の時にその存在を知ってから恋焦がれ続け、採集するために細かい記録を拾い、ホストや生態の勉強をした初めての虫である。

これまで3回挑戦し続けてきたが惨敗し続け、いつの間にか学部4年、学生最後の年になっていた。

焦燥と抑えきれない欲求の前には就活という一大イベントだけでなく、卒論関係の山積みタスクも立ちふさがっていたが、気合と先送り精神、そして断固たる強い意志を持って遥かなる国境の島へ行くことにした。

 

今回は強力な同行者もいるので、不安はなく期待感だけを胸にかの島に乗り込んだ。

 

 

 

”手をつかねていたらどんどん良くないことになりそうだから。だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?”

 

 

 

 

 

 

 

5月3日

夜が明ける前に対馬の土を踏む。レンタカーを借りると、ここから車が来るまでの地獄のような待ち時間を港で持て余す羽目になるが、今回はそんなことはない。なぜって?彼女がいるからさ!

 

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今回の旅の同行者、麗羅(レイラ)ちゃん。めしをたくさん食うのが短所でもありチャームポイントでもある。

というわけで麗羅ちゃんにまたがり、一路道路をかっ飛ばす。

 

まずはとある公園へ。ここにはアカマツがごろごろしており、ニセハイイロハナカミキリ(本土のラギウムとは別種)が採れるためだ。

 

張り切って樹皮をめくる。…が、絶妙に古い材が多く、ムカデしかいやしない。新しい材はことごとく心無い虫屋によって荒らされており、悲しくなった。

そもそも、今の時期にラギウムって樹皮下にいるのだろうか…?

 

ムカデはキライだし、樹皮をめくっていると観光客に変な目で見られるので午後に再訪することにし、大移動。

途中の拠点に荷物を置き、身軽になってから目をつけていたモンクロベニのポイントへとひた走る。

 

 

 

ここでモンクロベニカミキリ採集について簡単にまとめると、

・シイやヒトツバタゴなどへの訪花記録はあるがあまり期待できない(対馬のシイはろくなむしがとれない)

・伐採地のコナラ等のひこばえに後食に訪れる(コナラであれば対馬固有種のヨスジアオカミキリも同じようにして狙える)

この2点であろう。というわけで伐採地を探す必要があるのだが、運よく見つけたとしても鹿よけネットで囲われており、侵入は出来ない伐採地が多いので注意が必要である。

 

 

 

…ということで伐採地へ。対馬にはもう何度も来ているため、鹿よけネットの無い伐採地はだいたい把握している。たどりつくまでがものすんごい悪路だが。

 

麗羅ちゃんがうなりをあげながら未舗装の砂利泥道を駆ける。車幅は1.2台分くらいしかないし、脇はガードレール無しの崖だから、車では来れないだろうな…でも去年は車で来たよな、よく事故らなかったよな…と思いながらひたすらに進む。

30分くらい進んだところでポイントに到着する。が、ここで想定外の事態が発生する。

 

…ひこばえが成長してる…

 

これモンクロベニ来るのか?これはひこばえなのか?そもそもひこばえとは何なのか?よくわからなくなった。

 

 

とりあえず弱気で探してみるが、何もいやしない。頭上にシイの花があったので掬ってみるが、シロトラ、トゲヒゲトラ、ピドニー(対馬亜種だが採集済みでいらない)あたりのド普通種しか入らない。泣いた。やっぱシイってクソだわ

 

 

 

膠着する戦況を打破するために移動することにした。まあ、モンクロベニは午後でもひこばえに来るし、いいポイントが見つからなくても時間つぶしにはなるだろう…ということで、弱気なままに出発する。

 

 

どこにつながってんだかよくわからん道を走り続けると、部分的な伐採地っぽい場所にいくつかめぐりあった。航空写真ではわからなかった予想外の出会いだったが…

 

 

1つ目、ヒノキがすくすく育ってる!解散!

2つ目、鹿よけネットがあって入れない、はい、さよなら!

3つ目、緑が皆無でただの荒れ地やんけ…

 

 

ここらへんで帰りたかったが、ヤケになって進んでみることにする。トラックのものらしき車輪の跡があり、木材伐出の痕跡が認められたためだ。

 

ここら辺から道幅がさらにヤバくなり、原付では前方からトラックが来た場合物理的に死んでしまいそうになったため、Uターンして広い場所に停め、ひとりぼっちで先を目指す。

 

しばらく歩くと、荒れ地が道のわきに広がった区画に出た。緑が見える。駆け寄ってみるとクヌギかコナラっぽい(森林科学専攻なのに同定が出来ない)!しかもいっぱいあるぞ!

 

道沿いにひこばえがぽこぽこ生えている。張り切ってルッキングしてみるがよくわからんタマムシしかついていない。もどかしくなったので斜面をよじ登り、さらに上のひこばえを目指すことにする。

 

いっこめ

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まずは全体をぼんやり見る、と、視界に赤いものがよぎった。反射的に手を伸ばす。

 

エリトラの上に、シルクハットみたいな黒が、映えて…

 

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モンクロベニカミキリ Purpuricenus lituratus Ganglbauer, 1886.

3年目にしてやっと、この手につかむことができた。抜けるような青空に向かって勝利の雄たけびを上げる。

 

鼓動が落ち着いたところで、やらせの生態写真撮りたいなぁ…でも逃げられたらやだなぁ…と思いながらひこばえに目をやると、

 

もう一匹ついてる!!!!!!

周りに目をやると、あちこちで赤い虫の影が乱舞している。どうやら、とんでもない楽園へたどり着いたようだ。…歩いたかいがあったなぁ。

ということで、最初の個体ともう1ペアだけとって、あとはひたすら撮影会をした。

 

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こんな風に張り付いている

 

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青空がすごかった。その分暑かった。

 

このポイントに30分くらいいて見られたモンクロベニの数はフタケタ。

大分なんかではハラアカコブカミキリの侵入で壊滅状態と聞くが、当該種が在来種であるここではうまいこと共存しているのだろうし、材を蒸したりする防除作業が行われていない(余談だが、アカマツ材はしっかりと蒸されており、ラギウムは壊滅状態である)。

また、対馬はしいたけの生産が盛んであり、そこでうまいことクヌギなどのサイクルが回っている。

さらに、鹿よけネットで悪い虫屋の侵入が防がれ、採集圧もかかりにくい(この島での採集圧など微々たるものだろうが…)。

これらのことから、モンクロベニ最後の砦であるこの島には、かなりの個体数が生息していると思われる。

 

 

…とまあ最大の目的を果たしたところで連絡が入る。どうやら研究室関連の案件で明日の便で福岡に帰らねばならないようだ。

モンクロベニ未採集であれば見なかったふりをし、更に研究室での評判を貶め、迫害されるようなことになっていたかもしれないが、穏やかなこころで受け入れ、翌日帰ることにした。

 

その後はラギウムのポイントへ戻るが、ツヤケシハナカミキリしかいなかった。

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また、夜の森に分け入ったりもしたが、ろくな虫がいなかった。ヒサゴが2種とも採れたくらいか。

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ツシマサンショウウオがいた。

 

5月4日

この日は中途半端な時間しかなかったため、迷ったがとあるカミキリを狙うことにした。

対馬から上対馬への大移動。麗羅ちゃんは悲鳴を上げながらも頑張ってくれた。

 

ケヤキとコナラが生えている一角へ。この時点で察しのいい方は気づかれるでしょうが、とあるカミキリとは青いアイツです。

 

このポイントは過去の経験上、テキトーにスイープしてるだけでヨスジアオがぽこぽこ網に入る素晴らしいポイントなのだが、1時間近くスイープしても入らない。さすがに焦り始める。

 

ウマノオバチやタイリクカンボウトラカミキリくらいしかうれしい虫が入らなくて嫌になったが、執念で1頭落とすことができた。よかったよかった。

どうやらここのヨスジアオはもっと遅くにならないと個体数が増えてこないようだ(と信じたい)

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ヨスジアオカミキリ  Eumecocera impustulata (Motschulsky,1860)

何回も採っているからか、網に入った時に口から出たのは「やった!」でも「よかった…」でもなく「おせーよ…」だったのが、ね…

 

疲れたので下対馬に帰り、厳原港近くの「対馬バーガーKIYO」のチーズバーガーとコーラで〆。船に乗って福岡に帰った。

 

春の対馬でやり残したことはもうないな…と思える素晴らしい採集だった。ありがとう。

就職出来て九州支社に配属になったらまた来ます…

 

次は夏に攻勢をかけようと思っている。まだ未採集のツシマヒラタや対馬のセダカ、個体数の多いネブトはもちろん、白カミキリ軍団やチョウセンヒラタ、オオアオやヒロコなどほしい虫がいっぱいだ。そのための準備もいくつかできた、有意義な遠征だった。

 

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ではまた。