夏の採集がひと段落し、季節の移ろいを感じる頃、衝動は動き出した。
第1段階。
ここ半年放置してすっかり湿気たうるまに火をつけて紫煙をくゆらせる。
1本、2本、3本。
航空機と宿とレンタカーの予約を完了させる。
関係各所に問い合わせ、各種許可を申請。
林野庁は仕事が早いので助かる(沖縄某村の夜間通行と比べ)。
第2段階。
平日の深夜23時、或いは土曜の20時。
上司と仲良く残業しながら「この繁忙期10月末には終わりますかね?」「一段落したらまとめて代休消化したいんですよね〜」等々ジャブを放つ。「好きにしろよ」任務完了。学生の頃であれば適当に仮病をでっち上げて行方をくらませていれば良かったが、労働者はそうもいかない。
第3段階。
ひたすらに"熱い季節の曲"を聞き込む。
「君を思い出すことが君を懐かしむようになり綺麗事」
「きっとまだ坂の途中 思い出には出来ない」
…テンションを上げすぎて、出発1週間前に会社の給湯室でシャドーボクシングをしていたら怒られた。
という訳で迎えた出発3日前。
ダイナミックに5泊6日の日程を確保していたが、南の空に不穏な影。
やがて影は台風に姿を変え、進路は最終日八重山直撃コースというあほみたいな試練が降って湧いてきた。
有給の残りはないし、帰りの飛行機が飛ばなかったらジ・エンドである。
…が、今更止まらないし止められない。
天気予報はみるみる崩れ、夕方に現地入りする初日以外全て豪雨というしょーもない天気になったが、まぁ、最悪一周路でヘビを探すか…ということで日常を飛び出した。
……………
1日目。
羽田発ANA直行便で石垣へ。
大原行のフェリーの時間が微妙だったため飯を食わずに港へ。
(大原行の方が上原行より安いし、そもそもこの時期の上原便はだいたい運休している)
天気はそれなり。
いつものレンタカーを借り、いつものスーパーで食材を買い、拠点に荷物を置いて…などとしていると入林は18時半ごろとなってしまった。
この日は初日&天気がいいということでハズレなしのマイポイントへ。
環境はいいしガチ登山ではないしいいポイントなのだが、少しでも雨が降ったら増水してたどり着けなくなるのが欠点である。すなわちチャンスが今日だけということです。
ぬらぬら歩いてバシャバシャ渡渉して…を繰り返していると、一昨年に大歯と激中歯がケンカしてたポイントに。
(撮影したのは一昨年ですよん)
ぼくは所謂「ご神木」というものに縁がなく、しょっぼい木やら倒木みたいな発生木にしか縁がない。
ここも一昨年来た時に発生木と思しき倒木がイノシシにめちゃくちゃにされていたのを思い出し、まぁいねぇだろうな…と思いながらあたりを見て回る。
…いねぇ。
いないのでしょっぼい木の幹を見て回る、と…
ヤエヤマネブト。
この前採ったやつより大型で顎がカッコいいのでガッツポーズ。
ヤエヤマネブトはいつ採っても死にかけというジンクスに苛まれているが、この個体もご多分に漏れず死にかけであった。(2日後に死んでた)
すぐ近くにはヤエヤマミツギリゾウも。
現金なもので元気が出てきたので捜索範囲を広げる。
と、少し先に木の根っこ?朽ち木?のようなものが。
こういうところにクワガタが横たわってたりするんだよなぁ、と近づいてみてみる。
と、視界の先に枝でも蔓でもない細いものが。
"それ"はまるでスローモーションのようにゆっくりと動く。
図鑑では何度も目にしていたが、フィールドではお目にかかったことのない、どことなく妖しい雰囲気をまとった色彩。
他の国産蛇のそれとは一線を画す凶悪さと愛らしさ、間抜けさが同居した顔。
先入観なしでも十二分に妖艶なヘビだが、その最大の特徴を知っていると、実在性すら疑ってしまう。
頭ではその正体を理解できたが、言葉が出てこない。
人生通算20回以上の八重山渡航で一度も見ることができなかった精霊が、目の前に。
「イッ、イワサキセダカヘビぃ〜〜〜!!!」
原生林に叫び声が木霊する。
特定のカタツムリしか食べない日本最凶の変態ヘビ。
八重山というものを観光以外の面から理解する上で必修科目たる傑物、岩崎卓爾の名を冠する精霊蛇の片割れ。
それが今、目の前に降臨している。
手が震えていてろくな写真が残っちゃいない笑
30分は放心状態で座り込み、ゆったりと動くセダカヘビを眺めていた。
時計を見ると21時を過ぎていたので別のそれなりに木が多いエリアへ。
第1号。体型がよくアゴが隠れていたのでワクワクしながらアゴを見たらデブ中歯だった。このポイントはこういうことが非常に多い。
?
大ちゃん。61後半くらい。
まぁこんなもんか。
ポエムを詠唱するほどのサイズではないな。
秋の探索のマイルールとして、大ちゃんがいたらUターンすることとしている(もちろん帰り道で脇に外れて探索するのはありだけれども)。
原生林と対話しながら決めたルールだからやめないと思うけど、65とか見たことないのはこういう感じでハングリーさが足りてないからかもなぁ、と思う。
帰り道は特筆すべき出会いはナシ。
何故か血迷って別エリアのポイント(幻想精霊:イワサキワモンベニヘビの目撃情報有り、クワガタも採れるが自分との相性は悪い、ハブめっちゃいる)に日付が変わった頃に突撃したが、小を1匹見るまでにハブを10本見たので萎えて引き返した。
ギンギンだったので島内を2周くらいした。
路上のクソデカヤシガニ。
たぶん人生で見た中で1番でかい。
2日目。
朝の5時まで起きていたので目覚めたら11時とか。
良くもなければ悪くもない天気。
今夜までもってくれたらいいな〜と思いつつひるめしへ。
この日は新規開拓で祖納集落のラーメン屋「片桐」へ。
日本最南端のラーメン屋ということで味よりロカリティに期待して行ったが普通の醤油ラーメン。普通に美味い。
ただ、チャーシューは本当に美味しかった。都内の激戦区で出しても評判になるレベル。
腹ごなしにふらふら島を放浪し、雨でもなんとかなりそうなポイントの新規開拓をしていると、話題のルリモンジャノメがいた。
…が、網を忘れたのでどうしようもできず。
場所は抑えたので来年だ来年!
拠点に帰って昼寝して、この日もマイポイントへ。
寝坊したので18時半くらいからの突入。
…
…
…まぁ特に…特筆すべき出会いはないにゃぁ…という感じ。
ちっこいのはそれなりにいるが、ここはそういうポイント(個体数は多いがサイズが伸びない)なので…
しかしまあ、ヘビが居ない。
セダカおったんやし、流石にベニヘビとは言わんが、バイカダくらいはおってもええんちゃう???と半ギレた。
流石にマダラと誤認してスルーするアホはしていないだろうけど、ここまでいないのはおかしかろうもん。
唯一声を出した出会いはこちら。
なんでか道沿いにいたやつ。大歯かと思ったら1対だけ0.3㎜くらいの内歯が残ってた。
「いぼ大」はなんだかんだ初めてなのでパシャリ。
なんやかんやしながらあーとかうーとか言いながらヤブコギしているとそれなりに雨が降ってきたので退散(少しでもタイミング間違えると増水して長靴が終わるため)。
車に戻ると止んでいたのでUターンしようかとも思ったがどうせそこまで感動的な出会いはないだろうということで移動。
もちろん宿に帰って寝るなんて選択肢はない。まだ23時だし。
明日以降はろくな目に合わないだろうし、今日は徹夜かな~どこ行こうかな~と思いながら車を走らせる。
マイポイント以外はそれなりに雨が降ったのだろうか、路面はしっとりと濡れておりサキシママダラやらハブがうようよしていた。
マダラしかいないことは頭で分かってはいるが、バイカダの可能性も捨てきれないため、ヘビがいるたびに「マダラ…だよなぁ、うん、バイカダじゃないわよね」なんて独り言を言いながら、時には車から降りてジトっと見つめてみるが代り映えのしないマダラ模様の小汚いヘビしかいない。
完全に「枝ヘビ」の法則だなぁ、とため息。
(注:林道流しをしているときに「あれヘビじゃね?」と思って急ブレーキを踏むとだいたい枝とか草だよ、という法則。ちなみにヘビの時は「あっヘビだ」ってなる。やったことある人ならわかるはず)
そんなこんなでたどり着いた某所。
ここは5月に西表では珍品のサキシマアオヘビが転がっていた場所だ。
まさか2匹目のドジョウはいないだろうが…
通過する。
前方の路面にヘビが転がっている。
お?
でかい。
こんなでかい西表のヘビは、1種しか心当たりがない。
照らし出された模様はやはりヤツのものだ。
サキシマスジオ。
個体数はそれなりなんだろうけど、ネズミとか鳥とか食ってるからあんまり道路とかで見ないイメージ。
石垣で2回、西表は今回で2回目の目撃かな。
うひょーとか言いながら写真を撮っていると、対向車線にわナンバーが止まり、同業者っぽい人が出てきたので情報交換。
そこそこでかいクワガタが見れているとのこと。
詳しいポイントは聞かなかったけど、会った場所が場所なんで大体どこの森か分かってしまうw
スジオの写真会をした後解散した。
その後は新規開拓と称し行ったことなかった某所に行ったりしたが、道を外れきれないせいでヌル。
4時過ぎに帰ってきて半裸で寝ようとしたら太腿にダニがくっついててゲロ萎えした。
1メーターくらいのサキシマハブ。
今回はでかいハブを複数見た。個体数も多かった。
3日目。
起きたら昼。雨降ってんなぁ、くらいの天気。
とりあえず腹が減ったので「レストラン白浜」へ。
名物?デミグラスソースがかかったトンカツ定食を食ってスタミナ回復。
店から出ると予報通りアホほど雨が降りだしたので、山に入る気分にもなれない。
というかマイポイントに行ったら道路が冠水&登山道が川になってて笑ってしまった。いけるかな?と思って少し歩いたけど最初の渡渉ポイント前で長靴が浸水しそうになり、渡渉ポイントは濁流がとんでもない速さで流れていた。
もう終わりだよ。
布団をひっかぶってうーうー唸ってたらたら18時になったので嫌々外へ。
どうせどこも山は斜面ズルズル、沢は大洪水ということでどちらにも行きたくない。
どっちにも合致せずかつクワガタがいそうなポイントなんて…
…あるんだよなぁ。
10何回目だかの西表遠征の時に見つけておいたそんなポイントへ。
ただ、しょーもない環境なのでガチガチに奥まで行ったことないのが懸念点。大木とか見た事ねぇ。
まぁ、そんなしょーもない環境にも(サイズは置いておいて)クワガタはいるのだけど。
でもでかいのはいねぇだろうし、雨強いからぬれねずみになるだろうし、行きたくねぇなぁ…
なーんてことを考えながらモタモタと車を走らせる。
と、車道脇のツルアダンの海に何かがピカっと光る。
あーヤママヤーっすね。
(どうでもいい話だが、ぼくの中ではイリオモテヤマネコ=ヤママヤーであり、ヤマピカリャーはまだ新種記載されていないが西表の奥深くに生息しているより大型のヤマネコなのである)
というわけで通算8回目か?のイリオモテヤマネコ遭遇でガンス。
最近は毎回のように道路で見ているな…人馴れしちゃってんのかね。よくないね。
もちろん、写真は、ありません…
(カメラ出してピント合わせてたらどっか行った)
なんやかんやしていたらポイントについた。
雨具を着込んで歩き出す。
と、沢なんてなかったはずなのに目の前には小川が。
えぇ?
どうやらあまりの大雨で近くの湿地が溢れ、道が浸水してしまったようだ。
なんか知らんけどオオウナギとか泳いでるし。
やけになって湿地帯の生き物とたはむれる。
ヤエヤマイシガメ。田んぼとか行かないから西表ではあんま見てないな。
オキナワアナシャコ?
ヤエヤマセマルハコガメもいた。ロードキルを2つ見ていただけに小感激。
未知の奥までずんずん進む。
雨が強すぎてカッパが役に立たず、汗と雨でぐしゃぐしゃになっても進む。
雨が長靴に入り込んで完璧に浸水しても進む。
・・・・・・
成果、
以上。
しんどい。
ドロドロの斜面上の木にくっついてたのをスマホカメラのズームで撮ったからわけわからんけどいちおう丸ちゃん。
大だったらよじ登ってむしり取ってたけど小にそこまでする元気はなかった。
晴れてるときに来たら大ちゃん見れる可能性が5%くらいあるから、まあいずれ。
既知のポイントよりも歩きやすいし。
日付が変わるころに宿帰って寝た。
4日目。
相変わらず雨。
台風は当初計画よりは逸れてるから帰れないということはなさそうなのが唯一の救い。
昼は上原の新八食堂へ。
頼んだのは西表採集恒例の新八食堂の野菜ソーキそば。
本当に美味い。体が蘇る味と栄養バランス。
ルートビアを1日2リットル飲み、商店の弁当や惣菜を食堂での食事とは別に1日3-4食食う総摂取カロリー4000超えの不健康生活であっても、これを食べれば体の調子がととのう優れもの。
(そんな生活をしていても帰って体重計ったら出発前より減ってるけど)
遠征中盤くらいで入れるのがベストだが、食堂の新規開拓をしたかったのでこのタイミングで投下。
この日はこのあと何したんだっけ…?
某ポイントに行って地元の人と話して今回の雨がヤバいことを教えて貰って、いつもはくるぶしくらいの渡渉ポイント行ったら長靴が浸水したのは覚えてる。
写真が1枚もないしこのあとゲロ萎えして帰ったのか?一周道路でヤマネコ探しはしたはずだけど…
5日目(最終晩)。
雨。こんなもんか。
台風がそこそこ近づいていたが風は思ったより強くない。
上原便は欠航しているが、この時期運航してる方が異常なので…。
天気に対して思うところは多々あるが、まぁ、スジオは雨が降ったから見れたようなもんだしいいよもう感。
この日は上原のレストランたまごへ。有名店だけどなんだかんだ初。
思考停止で色々あるメニューからゴーヤーチャンプルー定食を頼んだけどかなり美味かった。リピート確定やね。
雨なのでたくさんウロウロしている。ロードキルを遠征期間4つ見た。林道流しでゴニやらクワガタを探してる身からすればこんなデカい亀を見逃すなんて信じられない…
あとは車の中で大声で「あ〜今回カンムリワシ見てねえにゃん!どっかいないかにゃ〜!」って叫びながら前の電柱見たら普通にいて笑った。やっぱり普通種だわ。
(普通種すぎて写真を撮っていないので5月に撮ったやつでお茶を濁す)
暇すぎたのでリニューアルした野生生物保護センターにも行ったけど、まぁ、ふーんって感じ。普通に楽しいけど感動はなかった。
キモオタと思われる(キモオタそのものの見かけをして今更何を言うのか感はあるが)から聞かなかったけど希少生物目撃情報の募集は辞めたのかしら?ヤマネコの情報提供するとシールくれるやつ。
この日の夜も来年への投資と割り切り、新規ポイントへ。
実は去年も1回来てるけど、同行者がいたにも関わらずオカルト的第六感が「ここはヤバい!マジでヤバいって!」と叫び倒してて引き返した場所なので気乗りはしなかった(今回1人だし)が、行く他ない。
…
…
ミニミニサキシマヒラタ。
以上。
昼行ってある程度木の目星をつけておかないとキツいという当たり前の原則を再確認した。
あと雨の不快感の方が強かったけど普通に雰囲気最悪で笑った。
6日目。
帰宅。
船がちゃんと出たのでよかった。なんか天気よくなってて微妙な気持ちになった。
羽田行きだとすぐ家に帰れていいな。
次は未定だけど5月末とかかな。
3月末も八重山行くつもりだけど西表には行かないだろう。
たくさんの喜びと、喜びが故の消化不良感を胸に冬眠するとします…