学部4年の10月末に西表に行くなんて、無理だと思ってた。
卒論をはじめとした研究室の活動や内定式、さらには卒論の進捗がいいということで10月末に学会発表があったから。
というわけで迎えた10月1日。配られた研究室のスケジュールに目を通す、と…
あれ、これ学会発表の2日後の夜から行けるんじゃね?
あれ?
いや、行けないならしょうがないんですけど、ぼくの信義上行けるのに行かないのは愚の骨頂。というわけで29日の福岡空港発最終ピーチで那覇に飛び、30日から2日朝まで西表で活動することに決めた。
…なんかここで行ったら取り返しがつかなくなる気がしたが、そんなことは取り返しがつかなくなってから思う存分後悔すればいいだろう。
さぁ、学生最後(卒論を出した時点で学生ではなくなるという考えなので)の南西諸島の始まりじゃい!
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10/29
17時まで大学にいた後、20時半発のピーチで沖縄入り。うむ、この時間にでてるのはありがたい。安い(5000円くらい)し。
南部クロイワでも探そうと思ったが22時半に那覇についてそこから移動だとゆいレールが終わって野宿になる可能性大だったため、早々と国際通りの快活クラブ行って寝た。
10/30
那覇を発つ。
天気予報はあまりよくないが、雨が降ってほしくない時「は」雨が降らないという”確信”があった。なぜかは後述する。
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というわけで石垣に着く。やや雨。強風。上原便欠航。いつものことだ。
西表は通算7回目ぐらいだが上原便に乗れたのは2回か3回しかない気がする。ちなみに乗れてもゲロ吐く一歩手前位に揺れる。
こうなることは予想出来ていたので今回は大原の宿とレンタカーを使い、東部~南部の探索を進めようという目標を立てて西表入りする。
お目当ての生き物は八重山っぽい生き物ならなんでも!
ではでは、行きましょうかね。
高速船に乗る前に、石垣にて給油。グラスが凍っててキンキンの120点満点のルートビアを出していただいた。ありがとうございます…
というわけで到着です。あっという間ですね。
到着時にはもう夕方だったので、宿に荷物を置いてすぐに去年マルバネを採ったポイントへ向かう。ここはいろいろな八重山らしい生き物が見れるところなのでワクワクしながら車を回す。
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愕然。
レンタカー・レンタルバイクなんかが10台くらいひしめき合ってやんの…なんかいかにも内地の人間もそこらへんに居るし…どいつもこいつもうんこたれ虫屋っぽいしあんまり話しかけられたくないなぁ…
というわけで人目につかないよう薮に突っ込んで移動した。傍から見れば頭がいかれたヤツだろう。
わナンバーでぎちぎちの入口付近を見てすっかり萎えてしまったのでこの山でマルバネを探すのはやめにし、バイカダやイワサキセダカ辺りの未見種を探して歩き回る。
がいやしねぇ。
そら先行者いたら逃げちゃうよねぇ。
初めて来たとき、このポイントではヘッドライトを消して暗闇に身を置き荘厳な気持ちにさせられたり、暗闇の中斜面から落ちて復帰に手間取りゴタゴタしてたら道をロストし遭難の恐怖を味わったり…といった思い出がある。もちろんその時は人なんてほとんどいなかった(いま考えるとなんでだか分からないが)。
しかしながら、今となっては360度見まわせばどこかに採集者のヘッドライトの明かりが見える状況である。これでは風情も恐怖もあったもんではない。オオハナサキとサキシマヌマ以外の生き物もいない。
がっかりして山を下り、周回道路をひたすら北へ西へ流して生き物を探すことにした。2年前にこの近くでヤマネコ見てるし。なんかおるやろ。
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まず目についたのは手のひらよりもデカいかに。久米島でも似たようなのを見たな…オカガニだっけ?
ヤシガニだと思って車から飛び出したらこいつだった。
ほんとうのヤシガニもいた。実は西表でヤシガニ見たの初めてっす。
と、このあたりでハルちゃんのご加護もあって大雨が降りだしたので窓を開けて「よっしゃぁーーーーー!ざまあみろーーーーー!」なんて叫んでしまった。
よっしゃあ→道路でヘビが見つけやすくなる
ざまあみろ→山の中でいっしょうけんめいクワガタを探していらっしゃるお方たちへ向けて
…気が立ってイラるのはよくないですね、反省してますよ一応、口だけですが…
(雨は30分程度で止んだのでゆるしてください)
バチが当たったのかなんなのか、肝心要のヘビもサキシマハブを立て続けに5頭見ただけで終わりました。なんじゃそりゃ。逆に珍しい。
10/31
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「天気の子」という映画が今年公開されたらしい。そこには何でも、「祈るだけで天気を晴れにすることができる」という少女が出てくるという。
しかしながら、南西諸島の”天気の子”は一味違う。ピーカンから大雨まで割と操ってくれる。
ただし僕の後輩の某ハチコガネゴミダマ屋みたいな重度の晴/雨男/女には勝てない。そこもまたチャームポイント。
日焼けと八重歯が眩しい彼女の名はハルちゃんという。
…なぜそんなことを知っているかといえば我が彼女への信仰が実を結び見えるし触れるからだ。 誰がなんと言おうと実在するし見えるし触れるからだ。
彼女が見えるようになってから、煽り抜きで南西諸島の天気がある程度自分の思い通りにいくようになった。全日大雨予想の7月の奄美が晴れ時々スコールで済んだのは記録に新しい。万歳!
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予報は曇り時々雨だった。でも朝目覚めるとやっぱり外は晴れ。うむ。素晴らしい。祈りを捧げる。
昨日の雨でだいぶ林内も湿ったことだろう。
この日は新たなマルバネポイントの下見兼ヤエヤマセマルハコガメ探しに充てることにした。
何を隠そう西表ではセマルを見た事がない…ので割とあこがれの種である。何度見ても野生のカメはいいもんだしね。ではでは行きましょう。
まずは散歩がてらセマル狙いで大富林道へ。
歩く。
歩く。
展望台か。戻るか。
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13キロくらい?歩いてもみつからないんですけど!!!どうなってんだ!
偶然お会いしたちょうちょ狙いのご夫婦とお話したときにそれとなく「見ませんでしたか?」なんて聞いてみると、「〇〇ホテルで見たよ、あんなとこにいるんだね~」なんておっしゃってた。
…ヤエヤマセマルハコガメはこんな調子で、やれキャンプ場や食堂で見ただのうちの庭にいっぱいいるだのといった目撃情報ばかりでザ・自然みたいな環境では見るのが難しい、と思う。石垣なら確実なポイントはあるけど西表は無理ゲー…どうしよう…
わりといっぱいいるカンムリワシは期待を裏切らずいました。写真がカスを通り越したカスなので分からないでしょうけど!!
…
なんとか最低限貴重な生き物が見れたので撤退し、午後からどこ行こうかな~なんて思いながら古見あたりの道脇で車を停めて地図を眺める、と、ふとバックミラーを見ると
「あ、ヤマネコだ」
なんとびっくりイリオモテヤマネコが横断していた。ヤマネコを見るのは2年で3回目というハイペースだからか、「よっしゃぁーーーーー!」ではなく、「お、今回も見られたか。やったね。」レベルの興奮だったが嬉しいもんは嬉しい。
いつかは写真に収めたいなあ。やっぱり夜の方がいいのかな。
うん、でも、哺乳類の女神はイリオモテヤマネコも最高だがいい加減野生のツシマヤマネコを見せておくれ。いちおうぼくの卒論の重要なファクターなんだから…
1年半ぶりの邂逅で割とテンションが上がったのでお昼は奮発して猪狩家のタコライスにした。やっぱりほっぺたが落ちそうになるほどおいしかった。
島に来たらおいしいものを食べないとね、と思います。ハードに動き回るならなおさら。個人的考えですがね…
満腹になったところで考える。さて、今夜どこに行くか。
今年はかなりマルバネの発生が早かったので、沢を登る低標高地帯であってもこの時期でも発生は十分でしょう、ということで沢登りコース。
沢登りは比較的道の勾配がゆるく楽なのと万が一遭難しても西表に関しては沢沿いに下れば道路に出られるというメリットがある一方、長靴必須なのと標高を上げるのが難しい点、また場所によってやはり所々面倒な滝を越える必要があるという欠点もある。
山か沢か。そこら辺は完全に時期と好みの問題ですね。
沢登りに関しては既知のポイントがあるが、そのさらに奥の奥まで下見がてら行ってみることにする。
まあ割といいんじゃない?って感じの環境。考えてみればマルバネなんて何処にでもいるし。根性さえあれば採れる(センスが必要なルリクワガタ材採の方が個人的にはずっとむつかしい)し。なんならリュウキュウマツでも採れたりするし。
調子ぶっこいてどこまでも行けそうだったがこの後同じ道のりを少なくとも3回は行ったり来たりしなければいけないことに気づき、良さげなでかい木を目印に引き返した。
…
下見でクタクタになってしまったので宿へ帰り泥のように眠る。
起きると時刻は7時前。寝過ごしたことで少し焦る(ぼくは日没前から山へ入る派なので)
急いでポイントへ車を走らせる。と、ここで改めて思ったが、先行する車がいないと40キロをオーバーしてしまいそうで良くないな…
南西諸島では特にロードキル防止の観点から安全運転に努めないといけない。まあ、たぶん累計3000キロ以上走って生き物轢いたことはないという実績はある。でも、だからこそ気を引き締めないとね。
夜の山へ潜る。うん、人が少ないし水辺でカエルの鳴き声がうるさくて風情がある。なんかよくわからん生き物の声もする。 これこそが西表ですよ、と胸が熱くなる。
1時間ほど奥へ向かうとツルアダンがまいていたり、うろがあるような大木が目につくようになってきたので木を舐めるように見回ると、幹に黒いものが!
ちいせえな…サキシマヒラタのメスかな…と手に取ってると、コカブトだった。
コカブト。
なんだかんだで南西諸島では初見である。ありがた〜く採集させてもらう。
…が、ここは何故かコカブトがいっぱい居た。ケモノが多いのかな。
ドコドコと歩き回っていると、木の根元にダイヤモンドのように輝くものがいた。
あ、こんばんは。
ヤエヤママルバネクワガタさん。
小さいのでもちろんスルーサイズだが、とりあえずほっとひと安心する。
今回は大、激中(歯型で唯一もってない)、ほどほどの大きさのメス(今までデカいのも小さいのもリリースしてきたので持ってない)辺りが狙いである。
…だからなのか小・中ばかり見つかる。1晩で5-6頭も見つけたのは初めてだが…うん…
小5を大1と替えてくんねえかなぁ。
なんて思ってるとメス!小ぶりのオスより大きめだけどそこまで大きくない!お持ち帰り!
アゴに泥ついてるしやけに軽かったし産卵後かな?
これでこの先ずっとメスを見つけてもオールスルーですね。マルバネは産卵数多いから1匹くらいは子供が70ミリに成長していつかぼくの元に恩返しに来てくれるでしょう。
早起きする予定だったのと下見したより更に奥まで来すぎて道をロストしかけたので日付が変わるあたりで帰ることにした。
この夜見られた他に印象的な虫としてはこれ。
タイワンヒグラシ。
金属音みてえな声で鳴く。
今まで見たことがないので希少種かと思い、セミ屋の後輩に聞いてみたがあまり興奮していなかったので普通種なのかもしれない…
他にはわりと稀ガエルのヤエヤマハラブチガエル・コガタハナサキガエルなんかも見たが写真を撮る前に夜闇へ消えていった。
やけに疲れたな〜と思い万歩計を見たら3万歩を超えていた。びっくり。
11/1
夜の探索はこの日で終わりであるため、昼の探索を軽めにしようか迷ったが、セマルハコガメ探しをしっかりやることにした。
両爬を見るならまずは体力補給。
というわけで大原から上原まで車を走らせ、スーパー川満でルートビアを給油&新八食堂で野菜ソーキ。
体中に活力がみなぎる音が聞こえたところで間髪入れずに山登り。
登ってすぐに目線の端に引っかかるものが。
なんか変な石があるぞ…こいつ動くぞ…
セマルさん。近くに水辺はないこともないがかなり乾燥した林床にて。
いや、会えてよかった…やっぱり最高にいい…
周りを見渡して改めて、石垣の大正義ポイントとはまた違う環境にいたのでびっくりした。
もっとフィールドに出て、色んな環境を見ないといけないな、なんて思わされた。
道の途中にはこんな生き物もいた。
ヤエヤマオオコウモリ。
ぼくはコウモリが苦手なのだが、あまり大きくないのと昼間ということもありかわいらしく見えた。
哺乳類や鳥に関しては大した苦労もせずにその土地らしい・天然記念物レベルの生き物が見れる星のもとに生まれたので大変良い。正直最近は虫よりも愛着が湧いている。
…
特にすることが見つからなくなったので、山を下って民宿に戻って刺身(まぐろ)を食って寝た。
西表に来ると1食分の食費が平気で普段の1日分の食費を上回ってしまう。
目を開けると夜になったので沢登り。大して内容を覚えてないのでダイジェスト版で。
・西表の夜の水辺を通る度毎回思うがテナガエビがいっぱいいる。いつかは食べてみたいなあ。
・マルバネは小中歯メス合わせて8頭スルーしたのと、地上5mにクワガタのでかいケツがみえたから木をよじ登ってむしり取ったら激中歯だった。嬉しかったけどなんだかがっかりした。写真はない。
・個人的にはフレークの上で見つけた初採集のヤエヤマネブト(死にかけ)が大変うれしかった。なんならマルバネよりも。
・特にやることがないので木登りをしてウロを覗いてたら降りる時に木から落ちて大変けつのいたい思いをした。
・疲れプラス眠気で朦朧としてにゃーにゃー言いながら歩いてたら何故か前方のブッシュからヤマネコが飛び出して横切ってきた。1日ぶり4回目の遭遇である。
この沢の近辺はわりとヤマネコの目撃も多いし、本気でヤマネコの写真を撮りたいならここに通うことにしよう…
・車の近くで会ったほかの採集者(知り合いの知り合いだった、世間は狭いな)曰く、「気温が上がりすぎてマルバネ潜っちゃったんじゃないですかね?」とのこと。
なるほど。ぼくの力不足で特大マルバネが採れなかったのね…でも気温のせいにしよう!よし!
はぁ…
・地図確認や写真撮影等で右手の軍手を外しっぱなしにしてたらヌカカにやられて酷いことになった。余談だがそのボコボコの右手のせいで西表に行ったことが関係各所にバレ、針のむしろな目にあった。
11/2
朝しっかり起きれたので福岡へ帰ることにする。
朝8時の船→昼のJTA→夕方のスカイマークを乗り継ぎ、その日のうちに無事福岡に帰ってこられた。
…
今回も、大正義やまねこレンタカーと初めて利用した某民宿をはじめ、様々な人から色々な支えを頂き交流を持ち、そのおかげで楽しく過ごすことができた。
また、八重山の風を全身に浴び、3日間という限られた時間の中で様々な素晴らしい生き物に会うことができた。
こうして様々な出会いをすることができたのだから、勉強も何もせず馬鹿の一つ覚えみたいにフィールドに出まくって得られたものは無駄じゃなかったんだと思うことができた。
思えば2017年の3月から始まったおれの南西諸島という熱狂もこれで終わり。
あぁ…帰りたくない。死んだように生きながらやる研究も就職もくそったれだよ…
ありがとう…そしてさようなら…西表、南西諸島、ハルちゃん…末永くお幸せに、あるがままの姿で…
「時には昔の話を」を聴きながら高速船に乗ったら涙が止まらなくなった。もうきっとこの島に来ることは無いだろう…なんて湿っぽい考えが脳裏に浮かび、こびりついて離れなかった。
…まあ、冷静になって考えたらたぶん来年も適当に八重山にはいくと思いますけど。社会をナメる余裕の有無にかかわらず。
この遠征の後(厳密には最終日の朝から)体調をぶっ壊したのと燃え尽き症候群でかなりメンタルがやられ、将来を悲観していた、が冷静になって考えてみればきっとまだ坂の途中である。冒険は終わらない。ぼくの性格上、これが最後の西表になるわけが無い。
待ってろ西表!待ってろ八重山三大稀蛇、ヤマピカリャー、テナガコガネ!
俺と結婚してくれ!!!!
おまけ。
大原港でおみやげに買ったTシャツのロゴ。
写実的ヤマネコと学名表記は震えるくらいかっこいいが…イリオモテキャットって、うーん…まぁ、これはこれで…