両爬虫道を往く

博士にもひとかどの生き物屋にもなれなかったおじさんの日記帳 誤同定等ありましたらお気軽にコメントどうぞ

嵐の中で蒼めいて その虫をあきらめないで

九州にいる間に採っておくべきミーハー虫というのはいくつか挙げられるが、その中でも福江島マイマイカブリは筆頭候補であろう。
最大でも70mmに達する体の大きさ、真っ黒な体、エッジの効いた後翅末端…等々エモーショナルな要素が満載なのである。

さらに、話を聞くところによれば福江島マイマイは個体数が多くかなり出会いやすいとのこと(冬のマイマイ掘りは修羅道らしいが…)

更には梅雨明け直前の福江島に乗り込むことで、通称「フクエアオカナブン」も得られるという。これは行くしかないな、と思い遠征を企画した。

7/6
遠征には同行する1年生が2人いたのだが、この日の福岡なんと土砂降り。僕の家から福江行の船が出る博多港まで行くのに使う地下鉄とバスに影響はなかったため難なく博多港に着いたが、土砂崩れやらなんやらで筑肥線が全面運休となり、伊都周辺に住む同行者はドタキャンということに。…まあ、返金手続きもしてもらえたし船も動くようで最悪の事態は免れた。
日付が変わる頃に福岡を発ったが、なぜか船はかなり揺れ、寝ている時に吹っ飛ばされた時には死を覚悟した。
7時間近く船に揺られて終わり。

7/7
レンタカーを借りて、まずはフクエアオカナブンのポイントに向かって車を走らせる。話には聞いていたが、福江島の景色は植林ばかりでぞっとした。広葉樹林はまばらにしか生えていない。こんな場所で虫が採れるのだろうか?

集落を抜け、細くぐちゃぐちゃな道を行くと、開けた場所に出た。広葉樹も周りにそれなりにあるのでバナナトラップを仕掛ける。荷物削減のために長竿を持ってこなかったので足元と目線の高さにしか仕掛けなかった。さて、これがどう出るだろうか。

来た悪路をひーひー言いながら戻り、マイマイカブリのポイントへ。先日後輩が4頭採集した高実績のポイントだ。
ここには10個ほどコップを仕掛ける。ベイトは王道を行く酢とバナナトラップの廃液(ゴトウヒラタ狙いのバナトラにマイマイが付く話を聞いたため)の2種類を使用した。

さて、先述したように九州では前日まで凄まじい雨が降っており、道の状態が著しく悪かった。そんな中にレンタカーで突っ込んでいくというのは自殺行為に等しい。よってテキトーなコンクリートの上に車を止めて歩いて採集できそうなポイントを探すが、そんなものはそうそうあるもんじゃなく、いたずらに疲れが溜まっていった。

さらに、道の駅のレストランはメニューがバイキングのみというしょうもない仕様で入りづらい。ちゃんぽん屋は休みだしひそかに楽しみにしていたローカルコンビニのRICはポプラに置き換わっていた。

ああ、さっさと帰りたいなあ…とこの時点でかなり強く思った。

 

トラップにむしが来るまでの時間稼ぎとして海岸に行った。幸いにも目当てのものはすぐ見つかった。

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ルイスハンミョウ。あほみたいにいたが長崎県では採集禁止。

海岸に野犬がいてとてもつらい思いをしながらコップを埋める。なぜかって?

オオヒョウタンゴミムシとか採れないかな…って(採れませんでした)


ああ、時間が経ったしトラップ行くか…カナブンなんだし来てるでしょ、ということで向かう。

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フクエアオカナブン。確かに青い。うん。
とりあえずほっと一安心。ただ、仕掛けた場所が悪い(もっと林道の奥にかけるべきだった)ようで、さほど個体数は稼げなかった。

かなり疲れていたのでジョイフルで休みながら作戦を練ることにした。確か、福江にはゴトウトゲヒサゴゴミムシダマシとかいうのがいたな…と思い出し、そいつを狙うことに。

車を走らせているといい感じの山奥に突き当たった。周りを見ると広葉樹の二次林で期待が高まる。ヘッドライトを装着しいざ林内へ…

 

なぜかヒサゴどころか甲虫が全くいない。サワガニしかいない。

全部食われたのか?んなあほな・・・

悲しくなったし、船でロクに寝てないし、しばらく仮眠したあとで街灯でも見回ろう、と思い目を閉じた。

 

さて、唐突な話だがぼくは霊魂や心霊現象というものをあまり信じていない。好きではあるのだが。

そんなものを信じ、恐れたならばきっと夜の森で生き物を探すことができなくなる、という打算的な理由からかたくなに信じてはいなかった。

とまあ、こんな話をしたからにはだいたい次の話が読めそうなものだ。

 

現実逃避として目を閉じた結果、眠ってはいたがそこは車のシート、どうしても眠りは浅くなる。ぼんやりとした半覚醒状態の中でぼそぼそとした話し声に気がついてびっくりした。ここは山奥である。まず疑ったのは暴走族か何か、カルト的な集団に囲まれたのか?ということだ。

あたりを見渡そうとして気付いたが体が動かない。目は開いているのに。この時点で「ああ、これが金縛りってやつか」とやけに冷静に判断してしまった。

もしここが六畳間で、聞こえてくる声がサイキックアイドルのものだったらwin-winな取引でも持ち掛けるものだが真っ暗な原生林で聞こえてくるのは野太くか細い(意味不明だ)声、しかもどんどん近づいてくる。複数いるなこりゃ…

さすがに恐怖を感じたが、同時になぜか怒りも湧いてきた。美少女でもない(と思われる)幽霊風情が生きてる人間様に迷惑かけやがって、もっぺん死なせてやろうか。

そんなことを思っていると右足が動くことに気づいた。必死で足を動かしクラクションを鳴らしていると体が動くようになった。とりあえずさっさとこの場から去ろうと思い、エンジンをかけ東方vocalを流しながら(幽霊より妖怪のほうが強いから除霊になると思った)街の明かりのもとへ走る。

車の中の変な雰囲気がだいぶ緩和されたあたりで恐怖が腹の底から湧き上がってきた。

怖くてバックミラーを直視できない。ジョイフルで一晩過ごそうかと思ったが、24時間営業をやめてしまっていたのでそうもいかない。

怖かったのでベースのなるべく明りが近いところで眠った。

 

 

7/8
朝起きてすぐ、マイマイカブリのポイントへ。ドキドキしながらコップを覗くと…いた!デカい!バナトラの廃液の方にだけ入っていた。
(写真はありません)
その後はフクエアオカナブンの追加を採るなどしたが、目当ての虫が採れたのと環境がしょうもないこと、行こうとした昨日とは別のちゃんぽん屋が閉まっていたことで心が折れ、連日の睡眠不足もたたり体が動かなくなったのでちゃんとした活動をしなかった。
夜は街灯周りをした。ゴトウヒラタはおらずマイマイカブリがいた。おわり。

7/9
この日はトラップをさっさと回収し、船で福岡に帰った。南西諸島ではないので気を抜いて林道を走っていたらイシガメが歩いてて急ブレーキを踏む羽目になった。

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得られた福江マイマイのサイズは最大64㎜とそこそこの大きさだった。家でコアオと並べてみると同じ国に分布するムシとは思えないほど違っていてびっくりした。

ゴトウヒラタも採ってないし、カナブンの追加も欲しい気持ちはあるのだが、正直五島列島は当分行きたいとは…という感じ。 遠いし高いし。

 

ちなみに、僕が仮眠をとってひっどい目に合った場所は地元では有名な心霊スポットだそうです…

 

事前リサーチはするもんですね。