両爬虫道を往く

博士にもひとかどの生き物屋にもなれなかったおじさんの日記帳 誤同定等ありましたらお気軽にコメントどうぞ

ヨナグニ☆センセイション

 小さい頃からずっと、昆虫の研究がした「かった」。そのために大学も選んだわけだというのに、いろいろな壁にぶち当たった結果、あっさりと(あっさりではないか)その夢をあきらめて別の道を考えるようになった。と同時に両爬に興味を持つようになり、初めての離島遠征は両爬目的でのものになった。

というわけで昆虫への興味は自然と薄れてい…くかと思いきや、とある美しい昆虫が僕の消えかけた炎に百万リットルのガソリンを放り込んでくれた。

その名はノブオオオアオコメツキ Campsosternus nobuoi

与那国島にしかいない国内で最も美しいコメツキムシだ。…そう、与那国島にしかいない。美しさのわりに知名度が低いのはこのせいもあるだろう。

 

6月某日、早朝の那覇空港にぼくはいた。飛行機の準備ができたというアナウンスとともに手続きを行い、飛行機に乗り込む。手に持った飛行機のチケットには「与那国」と書かれていた。

そう、まだ沖縄に1回しか行ったことのないぺーぺーが1人で与那国島に乗り込むという無謀な挑戦にぼくは挑むことにしたのだ。誘ったのに来なかった同期の連中のふがいなさ・しょうもなさには腹が立たないこともなかったが、与那国はレンタカー等のワリカン要素がなく、獲物も独り占めできるということでわくわくの前にはマイナスの感情は矮小で済んだ。

離島への採集は行けるかどうかじゃない。行きたいかどうかだ。

プロペラ機に揺られ、与那国空港に到着。宿の人が迎えに来てくださった。

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原付をピュッと借りて「ヤツ」のポイントに向かう…のだが迷子になってしまった。適当に原付を走らせていると目の前に大きな虫が!葉にとまったのを確認してネットイン。

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ヨナグニゴマダラカミキリ。固有種ラシイ

出だしは上々だ。そのほかにも乱舞する蝶をいくつかネットイン(そこそこ珍しいものも入っていたようだ)した後ポイントへ。

平日だというのに同行者が数組。話を聞かせてもらうとどうやら「ヤツ」はそこそこ採れているようだ。よかった。

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林道を無限に飛んでいるチャイロカナブン。カバイロハナムグリというものもいるらしいが…

 林道を歩き回るが「ヤツ」はいない。木を見るのに疲れたので草むらに入りヨナグニアカアシカタゾウムシを採っていると、突然強烈な立ち眩みに襲われ、視界が暗転した。

与那国についてから水分を一切とっていなかったので熱中症になってしまったようだ。ほうぼうの体で宿へ戻りダウンしてしまい、この日は非常にふがいない結果に終わってしまった…

 

2日目。この日は早起きし、物資を買い込んでポイントへ向かう。どうやら「ヤツ」は朝が一番採りやすいようだ。

例によって樹幹を見ながら林道をぬるぬる歩く。…が、どこにもいない。心が折れそうになった。

1時間ほど歩き回り、所要のため宿に戻らねばいけないことを思い出し、泣く泣く原付でUターン。と、ふと帰り道の一本のカラスザンショウが目に付いた。なんだかもやもやするので原付を停めて樹冠を眺めると、何かがきらりと青く光った。

呼吸が止まる。声にならない叫びをあげながら網を組み立て、青いカタマリを突っつき倒す。青が視界から消え、急いで網の中を覗き込む。

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ノブオオオアオコメツキ。与那国島にしかいない

やった!ついに会えた!笑いながら涙を流し、林道を転がりまわる。はたから見れば異常者以外の何物でもないだろう。かろうじて理性が残っていたので、15分しかかからずに正気に戻った。

宿で所用を解決し、ポイントに戻る。1頭採れたことで運が巡ってきたのか、追加固体を複数得ることができた。

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与那国亜種らしいです

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ノブオフトカミキリ。かっこいい!!

原付を適当に走らせていると、貯木場的なところに突き当たった。そこにはトラカミキリやアヤムネスジタマムシ、そしてなぜかノブオオオアオコメツキがいた。

「産卵期というわけでもなさそうだし、どこかに誘引源があるのでは?」という読み通り、ショウロククサギの樹液にクワガタ(サキシマヒラタ)と一緒にノブオオオアオコメツキがたかっていた。こういう「読み」ができるようになるともっとフィールドを楽しめるようになるはずで、そのためには勉強も大事だが何より採集に行きまくることが重要だと思う。

僕の周りにも研究者志望の人間がたくさんいて、先輩方はものすごく採集に行かれていて知識も実力もすさまじい人ばかりだが、一部(というか僕の同期)のそういうカテゴリの人たちはあまり採集に行かないように思う。…まあ、研究者志望でない人間がどうこう言うべきでもないが、あの人たちはどういう風に研究を進めていくつもりなんだろうか?フィールド経験のないひとの研究って面白いんだろうか?

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翌朝。まず起きてノブオオオアオコメツキを眺める。やっぱりいい虫だ。

この日はノブオオオアオコメツキ採集にはいかず、アヤミハビル館へ行く。応対してくれた女性の方(Sさん)が僕の大学の関係者でびっくりした。

アヤミハビル館でみたヨナグニサンとヨナグニシュウダに魅せられて、ひたすら原付を走らせる。道端に普通にウマがいてびっくりした。

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なんでも、この馬は与那国ウマと呼ばれており保護されているらしい。自衛隊が世話をしているようで、ぼくの親戚の後輩がお世話係のうちの一人らしい。

とりあえず昨日の貯木場へ。クワガタを採っていてふと横に目をやると、「それ」を認識する前に叫んでしまった。

「ああああああああ!ヨナグニサンだああああああ!」

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まさか見れると思わなかったのでびっくりしてろくな写真を撮っていない(まあ、僕の技術の拙さが一番の原因だが)。ヨナグニサンは現地では普通種ということだが、「にほんでいちばんおおきなガ」として幼いころから図鑑で眺めるだけだった虫に出会えて本当に良かった。

この日はきちんと夜の採集に行く予定だったが、台風が直撃しそれどころではなくなってしまったのが残念だった。

翌朝。昼前の便で与那国を去ることにしていたのでやり残したことはないかと指を折っているととても大事なことを忘れていたので原付をぶっ飛ばしてある場所へ。

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パシャリ

与那国島。またいきます。